高校生は何を思う

「就職」や「進学」を控え、人生の岐路に立つ高校生は、生まれ育ったふるさとに何を思うのか。2017年11月、出雲高校(出雲市今市町)の2年生17人に、「ふるさと島根」への思いを聞かせてもらおうと集まってもらった。高校生と向き合うのは、島根県内の高校魅力化に取り組む県特命官の岩本悠さんと、奥出雲町職員で地域おこしの最前線に立つ三成由美さん。紆余曲折を経てU・Iターンし、今は島根に根を張る2人と、揺れる気持ちを抱えた生徒らが、本音をぶつけ合った。

ふるさと 島根について考える ワークショップ

高校生の本音と向き合う

ワークショップ1 – しまねの課題は?

ワークショップで一番いけないのは、本音を言わないこと。 まずは遠慮なく島根の課題を指摘してほしい」。 岩本さんの言葉に、生徒らは待ってましたとばかりに、 日ごろから感じている不満を語りだした。

娯楽が少ない
最も多く聞かれたのが「娯楽の少なさ」。「好きなアーティストのコンサートが巡回しない」「映画の封切りが都会地より遅い」「放送されないテレビ番組がある」といった娯楽コンテンツへの不満や、「買い物できるところが少ない」といった日常の不便さを指摘する声が上がった。 情報はもっぱらスマートフォンで収集し、ツイッターで興味がある話題を追いかけている生徒もいる。ネット社会となり、地方と都市部の情報格差は格段に埋まった。だが、画面越しに手が届きそうなその「憧れ」に、実際に触れる機会は依然として少ない。そのギャップに対し、異口同音に不満が漏れた。 「電車を1本逃したら1時間待ちというのは、本当につらい」「新幹線がないから気軽に遠出できない」と、交通の不便さについても多くの意見が出た。電車やバスなどの公共交通機関や、自転車での移動がほとんどの高校生にとって、車社会である島根での生活は相当に不便を感じているようだ。「利用者が減りバスの路線がなくなった」と、人口減少により、様々なサービスが維持できなくなることを不安視する生徒もいた。

島根でいいの?
進学や就職、直面する進路選択について不安を口にする生徒も多かった。「県内に私立大学がない」「学びたい学部が島根にない」と、選択肢が限られるため進学を機に県外転出することへの抵抗感は少なそう。就職についても、「都会地に比べて職種が限られるのでは」「自分のやりたいことができないかも」とマイナスイメージを指摘する声があった。 高校生の率直な物言いに、うなずきながら聞き入る三成さん。「私も高校生のころは、こんな田舎、絶対に出たいと思っていた」と、昔の自分を重ね合わせ、懐かしそうな表情を見せた。

ワークショップ2 – しまねの魅力は?

「島根の課題」に続き、岩本さんからの次なる問いかけは 「島根の魅力を挙げてみよう」。 先ほどまでとは打って変わって、 思うように意見の出ない生徒たち。 首をひねりながら、ふるさとについて思いを巡らす。

自然の豊かさ
生徒の多くから聞かれたのは「島根の自然が好き」という意見。日本海と中国山地に抱かれたふるさとは、喧騒を抜け出して気軽に自然と触れ合える環境にある。「県民はみんな自給自足できそう」「しじみがないと生きていけない」と、四季折々の恵みがもたらす豊かな食文化を誇らしそうに語る姿もあった。 「治安の良さ」や「人の優しさ」など、実直でまじめな県民性に起因する「住みやすさ」を上げる声もあった。「おすそわけが多い」「3世代で暮らせる」「近所の人があいさつをしてくれる」と、普段はあまり意識したことのない、ふるさとの温かみに思い至る生徒もいた。 都会で暮らした経験がある生徒は「父親の仕事が忙しく、ほとんど顔を見ることがなかった。島根で暮らすようになってからは余裕が生まれ、家族で食事ができるようになった。それがうれしい」と語った。

こんな島根に住みたい
都会への憧れを感じながらも、ふるさとの良さをあらためてかみしめる生徒たち。「自然を残しつつ、もっと便利になって、田舎と都会が融合したふるさとになれば最高」「田舎であることを、もっと売りにするべき。U・Iターン者を呼び込むきっかけになると思う」との提案も飛び出した。また、車社会への負担感は大きく感じるようで、「若手の給与では車の購入が難しいと思うので、補助金を出してほしい」との要望があった。 さまざまな意見が出たが、具体的にふるさとへの定住を考えるのには、高校生にはまだまだイメージしづらい面もある。「地元企業についてほとんど知らない」と情報不足を指摘し、将来この地で暮らしていく実感が持てないという生徒も。一方で「島根ではチャレンジできる場が少ないと感じる。ふるさとにずっといて、変化がないのは嫌だ」と、現状に大きな不満があるわけではないが、未知なる環境で自分を試してみたいという意見もあった。

■参加者の皆さん 大谷 紗永、川上 竜司、熊谷 健隆、 水野 翔太、山田 麗乃、来間 友彦、 三原 悠祐、万代 征史、荒木 晃汰、 加藤 熙紘、門脇 麻衣子、 酒井 裕太郎、角 夢子、曽田 幹広、 中村 愛美、水 祥大、水上 光菜子

もっと知ろう「ふるさと」のこと。

ワークショップの終盤、三成さんが自身の経験と重ね合わせながら生徒らへ語り掛けた。「高校生のころに私が思っていた島根への不満はみんなと同じ。不便さや娯楽の少なさ感じて、進学を機に都会へ出たら、何でもあって最高だと思った」と振り返った。 だが、大学を卒業し、そのまま都会地で就職した三成さんは、日々の生活に追われる中で疑問を持ち始めた。何でも手に入るが、手にしたものはすぐに忘れ、「生きている実感」に乏しい毎日が三成さんを苦しめた。 「三食の食事にしても、地元にいたときは親戚や地域の人が作った米や野菜を食べていたが、都会ではどこで誰が作ったものか分からないものばかり」。都市生活を謳歌しているつもりが、消費社会に組み込まれた自分に嫌気がさし、地元へ帰ることに決めたという。 三成さんは「私は奥出雲町へ帰ってきて良かった」という。「みんなが言うように何もないところだが、ないからこそつくり出す楽しみがある。人口減少や少子高齢化など一筋縄ではいかない課題ばかりだが、向き合って動いて波乱があるほうが、生きている実感が湧く」と語りかけた。 「僕が島根にいる理由も三成さんと似たところがある」と、岩本さんがうなずく。「人口減少が進む島根県の課題は世界の最先端。これらに取り組むことは、日本や世界の未来をつくることと同じだと考えて、10年前に島根へやってきた。実際に今、高校魅力化事業など形になりつつあるのをみて、そのときの思いは間違いでなかったと実感している」と述べた。 二人の話に聞き入る生徒たち。岩本さんは「若い人たちが定住したくなる島根にするには、どうしたら良いか。今日は皆さんの生の認識を知ることができた。この課題を今後も皆さんと考えていきたい」と結んだ。

出雲高校の取り組み

ワークショップに協力した出雲高校は、文部科学省の先進的な理数教育実践校「スーパーサイエンスハイスクール(SSH)」と、世界で活躍する人材育成校「スーパーグローバルハイスクール(SGH)」に指定されている。生徒らは地域に出かけ、自然科学・社会科学・人文科学などの課題を見つけて研究。企画展示や、出雲市への政策提言を通じて成果を発信している。